本篇脱稿後

(本篇脱稿後、偶々「太陽」の六年一月号を手にしたところ、南方君の「蛇に関する民族と伝説」と云ふ長篇が載つて居た。其の中に蛇の特質に就き、コラン・ド・ブランシーの「妖怪字彙」(ヂクショネーランフエルナル)を授いて、欧洲人中にも随分蛇は蛻ぐ毎に若く成つて決して死なぬと信じて居る者もあるが、又英領ギヤナのアラワク人の所伝では、昔上帝地に降つて人類を視察せられたことがある、その時人類皆感性で上帝を殺害せんとしたので、上帝は大に●怒せられ、不死の性質を奪つて蛇蜥蜴甲蟲等に賦与したので、此等のものは孰れも蛻いで若返るとは言つて居ると云ひ、更にフレザーの「不死之信念」(ゼ・ビリーフ・イン・インモルタリター ー 一九一三年板)にも亦同じ様な例を色々挙げて、昔彼輩と人類と不死の竸争をした末に、人類が敗れて死ぬことに必定したとの信仰は、普通見る所だとあると云はれて居る。然り而して南方氏は此の類の信仰からしてか、本邦でも蛇の脱皮で湯を使へば皮膚の光沢を増すとか、又之れを黒焼にして油で練り禿頭に塗れば毛髪を生ずと信ぜられて居ると述べてある。博覧敬服に堪へぬで、乃ち此に引用する事にした。但し固より別段蛻皮と解脱との関係などは未だ一言せられてない。尚は蛇と性欲との関係に就いては本書最終の一章中第九節を参看せよ。フレザー氏の実に該博なる研究には今更誰も驚入るであらう。将又近頃聞くところでは台湾生蕃中には蛇を以て祖先の化身なりと迷信し、庭前や街巷に石碑様のものを立て、碑面には人の立てる姿とその頭辺に蛇を書けるものを刻してあるとのことだ。)