四(最初那岐那美二神国々嶋々を生み竟つて後、)

最初那岐那美二神国々嶋々を生み竟つて後、更に生み始あた神々の筆頭は、大事忍男神と謂ふのである。これは何となくこれより又諸行を生まうといふ大仕事の序開の様に見えて、而かもそれが陽神ばかりで陰神のないのはどうしたものだらう。忍の字は別に大した意義はない。三韓の古い名称中に忍とか耳とかさては尼とかいふのは多々ある。主長の位置に在るものを表するものらしい。それはそれとして、所謂諸行は最初が石で、陽神は石土毘古、陰神は石巣比売といふか、特に石巣の字に石臼の様な生殖器形を偲ばせはしなからうか。尚は自分は石土も 或は寧ろ石出で男根を形容したところがありはしないかと、彼是連想せずとは止められない。大戸日別と云ひ、天之吹男と云ひ、大屋比古と云ひ、風木津別之忍男と云ふ諸神は、又執れも陽神ばかり相次第してゐるが、それが何となう閨中女犯の過程を象徴してゐる様に見えるが、どんなものなのだ。斯くて海の神が生れた。其一名は少童といふとあるのも亦論理に合してゐやう。海の次に水戸の神あり河海に関係ある八神が其処に生れた。次は風の神・木の神・山の神・野の神で、而して山と野とに因んで又八神が生れた。彼の八神も此八神も陰陽配偶で、詰り四対と見えるが、天と国とを対するのも上下の対称で、矢張り陰陽に準じて看て好からう。それから鳥の石楠船神がある。之は素より船とすベきだらう。大宜都比売の事は前に言つた通りである。船は河海に係り、大宜都比売は山野に繋けて看るべきであらう。或は竊に思ふ、這の大宜都比売の配偶は、やがて大事忍男神ではあるまいか。それが書紀の一書に所謂事解之男であつても、固より差支ない。それから火神といふ順序である。斯くして地水火風もあれば、木火土金水もある。金は火神の次に、金山毘古、金山毘売のあるので爾か云ふのである。

然り而して此等の諸神大抵藕神であるが、火神にだけは陽神あつて陰神はない。俗説に男根をヘノコと謂ふのは、ヒノコの転で、火の児即ち這の火神を指したと云ふは如何であらう。尚ほ河海に因んた神が、沫から面となり、水分となり、終に久比奢母智と成るところにも、牽強附会すれば、男女交接作用の過程があるらしいと云ヘば云ヘるかも知らない。久比奢母智は本居氏の説では汲匏持で、一種消防用具の様に言つてある。自分には何となく喰ひ締めるといふ様に響く。山野に因みての耕神も狹土を寝床とし、而して狭霧、而して闇戸、而して大戸惑と数 ヘ立てると、是れにも亦何となう閨門壷中の光景髣髴たるものありはせずや。神秘固より明さまに曝露することは詐されない。